研究活動

2023年12月07日(木)5年 国語「『注文の多い料理店』のデジタル絵本をつくろう」

単元構想について

 本実践では、児童が主体的に学習に取り組むための手立てとして以下の2つを行った。

①パフォーマンス課題の設定

 本実践ではパフォーマンス課題「『注文の多い料理店』のデジタル絵本を作ろう」を設定し,他学級・他学年・保護者を披露する対象とした。学級全員で一つの物語のデジタル絵本を制作するため,班で場面の担当を決め,個々の役割も分担する。役割は「アートディレクター(絵画担当)」「サウンドディレクター(音響担当)」とし,いずれかを必ず担うようにすることで,表現することの必然性をもたせる。そして,各々の役割において表現するためには,物語の設定,仕掛け,表現の工夫から演出される面白さを理解し,それらに対する自分の解釈が必須となることをおさえ,読解することへの必要感をもたせる。つまり,パフォーマンス課題を単元導入で示すことで,読解への必然性と必要感を児童に抱かせることをねらいとする。

視点人物の転換

 本教材では2人の紳士に寄り添った語りで物語が展開していく。そのため,読者は2人の紳士に同化しながら物語世界を体験する初読を経て,2人の紳士を追い込む罠を一つずつ紐解きながら再読するという作業を行う。紳士に同化した読みをしていた児童が,山猫視点に立つことで,それまで寄り添っていた紳士を対象化し,客観的かつ批判的に捉えるようになる。また,紳士の視点から対象化していた山猫に寄り添い,分析的にみることで,西洋料理店 山猫軒の作り手としての山猫の工夫や意図にも思いを馳せるような認知的エンゲージメントの表出をねらいとする。

本時の様子について

 導入では、教師が作成した物語冒頭の絵(山猫が2人の紳士を眺めている)を提示することで,山猫がどのような会話をしているのかを想像させ、物語の対人物である山猫に着目させた。児童は「おいしそう」「だませそう」「動物の命を軽く見ている」という紳士の人物像を山猫視点で捉えている様子が見られた。

 次に、山猫の人物像について考える活動を行った。山猫がどんな人物かわかる表現を探していくと、戸の言葉に着目する(かしこい、ずるがしこい)児童もいれば、今回の企みを発起した動機(仲間思い、動物を大切にする)に着目して考える児童も見られた。また、今回の企みの成功・失敗についても触れることで、山猫の意図や考え方について言及する時間が生じた。

 そして、教師が作成した結末部の絵(帰ろうとする2人の紳士を山猫達が眺めている)を提示して、山猫達の会話を想像させることで、物語全体を通した山猫の言動のねらいや意図について考えさせた。その際、紳士を逃がしたことや、最後の一文を取り上げることで、山猫は何をしたかったのか、何を伝えたかったのかについて考えることができるようにした。児童は、最後の一文を「罰」と捉えている意見に収束し、その理由として「生き物を大切にしていないこと」「自分にとって都合のいいようにばかり考えること」が良くなかったことであるとした。また、「宮沢賢治が活躍した時代は環境が破壊されていった時代なので、紙くずになって元に戻らない2人の顔を通して、破壊された自然が元に戻らないことを言いたいのではないか」といった作者の考えに思いが及ぶ児童も見られた。

 児童の振り返りには、山猫視点で物語を捉え直した発見について述べる児童と作者の意図について言及する児童が多く見られた。

 

討議会の様子について

 討議会では、今年度の研究のキーワード「エンゲージメントを表出する手立て」としての「パフォーマンス課題の設定」と「視点人物の切り替え」が適切であったかどうかに重きを置いた討議となった。第2次の活動と第3次の活動のつながりが見えにくいことや、ルーブリックの項目が適切かどうか、子どもの姿に現れていたかどうか等が意見として挙がった。

 また、山猫視点で捉え直すことで作り手の意図に気付くとあるが、「山猫は食べるつもりはなかった」等の考えが、根拠が不透明なままに宙に浮いていたので、話し合いの際には意見に対する反論を問うたり、背景をおさえたりすることが必要ではないかとの指摘もあった。

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